ご挨拶・領域概要

代表挨拶

2020年度 科研費学術変革領域研究(A)として「マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界」が採択されました(2020-24年度)。

本領域は、これまで私たちが知らなかった、もしくは見ようとしてこなかった新たなタンパク質の世界を開拓する領域です。これまでヴェールに包まれていた未開拓のタンパク質世界を明らかにするには新しいアイディア・手法・材料が必須ですので、多くの研究者の参画を歓迎します。

計画研究に加えて公募研究も含めた多様な研究からブレイクスルーを起こし、生物学における新たなパラダイムの確立をめざします。ご期待ください。

領域代表 田口英樹
東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター 教授

研究班概要

ここ数年の間に従来のタンパク質像が大きく変革しつつある。これまでのタンパク質研究は、リボソームがmRNA内の遺伝子読み枠(ORF)の開始コドンから終止コドンまでを翻訳し、完成したポリペプチド鎖が立体構造を形成して機能するという過程を前提としている。

しかし、近年の様々な発見や技術革新によるブレイクスルーから、従来のタンパク質の見方が大きく変化している。例えば、翻訳は、想定されている遺伝子読み枠の開始コドンAUGから始まって淡々とアミノ酸をつないで終止コドンで終わるだけではない。翻訳はしばしばAUG以外から始まったり、翻訳伸長途中で止まったり、途中終了したりするなど、非典型的な翻訳が普遍的であることが分かってきた。

非典型的な翻訳は、神経変性疾患に関与する塩基リピート配列から起こる開始コドンAUGに依らない翻訳開始(RAN翻訳)のように病気に関与する場合もある。関連して、タンパク質をコードしないという定義で命名されたノンコーディングRNAが生理的に意味のあるタンパク質に翻訳される例が続々と見つかってきている。質量分析に基づくプロテオミクス解析の技術革新などによってプロテオームを構成するタンパク質のレパートリーは増加の一途をたどっている。

また、タンパク質はいつもフォールディングして機能するわけではないこと、特定の場所・特定の構造状態で機能を発揮するだけではないことも分かってきた。例えば、タンパク質によっては完成前、すなわち翻訳途上で機能を発揮する例が見つかってきている。また、タンパク質によっては、複数のオルガネラへ局在し、その多重局在が機能に直結することが分かりつつある。

このように、不変と考えられていた「タンパク質の世界」にはこれまで見えていなかった多くの面があり(multifaceted)、我々の認識する世界は拡大し変容しつつある。すなわち、タンパク質を真に理解するには、タンパク質の合成過程、種類、機能発現様式における従来の常識を疑い、これまで欠けていた新たな視点でタンパク質の世界を再定義していく必要がある。

そこで本研究領域では、拡大し変容するタンパク質の世界を「マルチファセット」な視点で開拓しながら、その実体、分子機構、生理的な意義と制御を明らかにし、タンパク質に基盤を置く生命科学に新たなパラダイムを構築することを目的とする。